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The Grandeurで、ピアノソロ曲の音圧を爆上げる①設定とルーティング編

公開:2024年09月17日

更新:2025年02月22日

The Grandeurを使い、ピアノソロ曲用のプロジェクト(テンプレ)を作成していきます。

また、「①設定とルーティング編(本記事)」「②エフェクト編」「③リバーブ編」の3章に分割しております。(24/9/16現在、②と③は作成中です)

では、解説を始めていきますが、聴き比べなどの前置きを飛ばしたい人は「使用するプラグイン一覧とCPUの注意点」へ飛びます。

Key Scapeの方が良くない?

まず、「なんで The Grandeur を使うの?」って話なのですが、単純に「KOMPLETEを買ったら、バンドルされていた」から。そして、音が良い。もともとは QL Pianos を使っていました。

では、The Grandeur と Key Scape の LA Custom C7(以下、Key Scape) を簡単に比べてみます。

The Grandeur はスタインウェイのD型の音を元にしているそうで、一方の Key Scape は、YAMAHA C7 のハンマーに、スタインウェイと同じ素材のフェルトを履かせているそうです。短いサンプルで聴き比べてみます。

サンプル01 - ショパン 練習曲 op.10-1

大音量注意

① Key Scape
② The Grandeur

サンプル02 - ガーシュイン 3つの前奏曲 No.3

大音量注意

① Key Scape
② The Grandeur

サンプル03 - ドビュッシー 月光

① Key Scape
② The Grandeur

いかがでしたか?

The Grandeur はスタインウェイらしい高音のきらびやかさがあり、オクターブには迫力があります(サンプル01)。また、低音の高次倍音やアクションノイズ、リリースサンプルが気持ち良いです(サンプル02)。

Key Scape はベロシティごとの音色が豊富(全32段階)で、特に弱音の表現が本物のピアノに近い気がします(サンプル03)。和音の響き(特にオクターブと完全4,5度)もクリアで、サスティン時のレゾナンスも絶品です。

どちらも弾いていて、楽しくなります。

ただ、本記事は The Grandeur をソロで如何に使うか?の解説なので、それに寄った考え方をあえてします。

The Grandeur は Key Scape よりも高音域が微妙に高く調律されているためか、特に完全4,5,8度で迫力が出る気がします(↓サンプル04)。

サンプル04 - ドビュッシー 仮面

① Key Scape
② The Grandeur

また、The Grandeur はフレーズが終わる時の「フィニッシュ感」にも、迫力を感じます(↓サンプル05)。

サンプル05 - シューベルト 即興曲 D899-2

大音量注意

① Key Scape
② The Grandeur

↑② は、ピークでコンプが強めだから迫力が出ているというのもありますが、①は和音の響きが綺麗にまとまっているためか、音量が出ていてもフィニッシュ感が少し弱い気がします。

ここまでで、The Grandeur の魅力が少し伝わったのではないかと思います。

The Grandeur の魅力は、強く弾いた時にアクションノイズがよく鳴ってくれる点と、迫力ある和音を出しやすい点です。

最終的に出来上がるサウンド

最終的に The Grandeur の音圧を爆上げる過程で、ff(フォルティッシモ)などの高強度な音のピークはコンプとリミッターで圧縮され、音声波形的にはダイナミクスがやや損なわれることになります。

そこで、曲のダイナミクスが大きくなるにつれ、「前後の定位感」が前へと出てきて、小さくなるにつれ、奥へと引っ込むよう工夫をします。そうすることで、音量の差が縮まったとしても、ダイナミクスが保たれているように聴こえるのです。

サンプル06 - 卵の殻をつけた雛の踊り

①【改善前】The Grandeur
②【完成版】The Grandeur

↑上記のサンプルは工夫をする前後の比較です。完成版の方は、クレッシェンドの時に耳元へ迫ってくるように聴こえませんでしたか?

設定・トラック数・リバーブ以外は条件を揃えています。

別の曲でも聴き比べてみます。

サンプル07 - ラ・カンパネラ

①【改善前】The Grandeur
②【完成版】The Grandeur

サンプル08 - ショパン 練習曲 op.10-4

大音量注意

①【改善前】The Grandeur
②【完成版】The Grandeur

改善前のサンプルは、全体的にサスティン時の和音のうねりをやや強く感じます。音圧を上げると、目立つようになるのです。完成版ではこれを軽減しています。また、こもった反響も目立たないよう軽減しています。

使用するプラグイン一覧とCPUの注意点

全3編にわたり、解説には Cubase(10.5.30) と The Grandeur(1.0) を使用していきます。

また、以下のプラグインを使用します。The Grandeurを既にお持ちなら、上の3つもあるのかもしれません。

  • Vari Comp【コンプ】
  • VC 2A【コンプ】
  • VC 76【コンプ】

--- ここから下は KOMPLETE 以外 ---

  • bx digital V3【EQ】
  • bx digital V3 mix【EQ】
  • bx console N【コンプのみ使用】
  • bx solo (無料)
  • Ozone Imager V2【ステレオイメージャー】(無料)
  • Ozone Element 9 (上位版でも〇)
  • R4 (Exponential Audio)上位版のSymphonyでも〇
  • Waves Center

上記のプラグインをお持ちでなくとも代替可能ですが、一番難しいのは「Waves Center」です。また、bx solo と Ozone Imager は無料でダウンロードできます。

コンプはアタックタイムで選びます。早いものから遅いものまで、最低でも3つの異なるコンプが欲しいです。

また、これから作成していくプロジェクトは、ミキシングまでを同じファイルでやります。つまり、プラグインを合計34スロットに挿しながら録音や再生をするので、CPUへの負荷が高まりがちです。Intel の i7-8700 以上か、それに近い性能があると安心です。

MIDIの段階でミキシングまでやってしまう

なぜ、ミキシングまでを同じファイルでやるのかというと、「修正作業の工数削減」と、「問題発生時、すぐに特定することができる」からです。

プロジェクトを分けていると、とにかく手間です。後のマスタリングでは、「ただ音圧を上げるだけ」にしていきます。

プロジェクトファイルの外観

↑最終的なプロジェクトファイルの見た目とルーティングの図です。

画像や図の意味がわからなくても、手順を解説していきますので大丈夫です。

本章では、The Grandeur の設定をした後、画像にある全てのトラックを(ひとまず空の状態で)作り、ルーティングします。作成したトラックにプラグインを挿していくのは、次章以降になります。

The Grandeurの設定

いよいよプロジェクトを作成していきます。

↓空のプロジェクトファイルを作り、テンポ・コード・拍子トラックを任意で作成します。

Midトラックを作成

まず「Mid」トラックから作成します。新規インストゥルメントトラックを作成し、KONTAKTを読み込みます。

The Grandeur を読み込みます。

トラックの名前を「Mid」に変更し、トラックカラーも変更しておきます。

ボリュームを +5.1dB 上げ、REVERB が OFF になっているかを確認します。

うまく+5.1dBにならない場合は、Windowsなら「Sift」キーを押しながらドラッグしてみてください。

次に「COLOR」「LID」「DYNAMIC RANGE」「RESONANCES」の4項目を設定します。

「COLOR」はハードめに2時方向、LID は全開。

「DYNAMIC RANGE」は12時半くらいに。

「RESONANCES」は9時にします。サスティン時の音色の変化を設定する項目ですが、少量で十分です。(多いと濁りの原因になります)

次に、【TONE】タブの設定をします。

「TRANSIENTS」は、ATTACK 寄りに少しだけ動かします。

「LOW KEYS」はつまみを11時方向にします。

「EQUALIZER」と「COMPRESSOR/TAPE」は後からトラックに挿し、調整しますので、OFF に。

「TONAL DEPTH」は共鳴の量を調整する項目ですが、和音の響きが濁りますので OFF に。ただし、後述の「OVERTONES」と同様、ユニゾンのみだとか、あえて不協和音をキツくしたいピアノパートの場合には ON にする選択肢もありだと思います。

次に、【ANATOMY】タブの設定をします。

① OVERTONES

つまみを9時方向にします。この設定は特に、アマウント量を上げ過ぎると響きが悪くなる上、後から原因を特定することが難しいです。JAZZのピアノ曲を作る際、テンションコードの響きに緊張感を持たせたい場合にはもう少し増量しても良い気がしますが、慎重に設定したいところです。オクターブのユニゾンしか登場しないだとか、不協和音をよりウネらせたいピアノパートであれば、設定値を最大にする選択もあると思いますが、本記事ではピアノソロ曲が前提の「響きがクリア」な音作りを目指します。

※ アマウント量が多い状態でテンションコードを弾くと、OFFの時との違いが良く分かります。

※ 設定値を最大にした状態でC4をそーっと押下したまま、C3を強く打鍵すると共鳴する、例の遊びができます。

② STEREO IMAGE

「Mid」トラックなので、あまり広げません。

つまみを8時方向程度にとどめます。

③ KEYS

ここでは Linear Velocity に設定します。リアルタイム録音をする際の弾き心地に関係します。Hard系にすると、軽く打鍵するだけでより強い音(ベロシティ値が高い音)が出ます。お手持ちのMidトラックIキーボードで試すのが一番ですが、注意したいのは次に作成する「Side」トラックと同じものに揃えたいということです。すべてが完了した後にMIDIキーボードで演奏した時、「ちょっと変更したいな」と思ったのなら、MidトラックとSideトラック両方の KEYS を変更して揃える必要があります。

④ PEDAL

HALFPEDAL のみをONにします。OFFにすると、CC64(Sustain)が ON/OFFスイッチになってしまうので、必ずONにします。

HALFPEDAL はCC64の値に応じ、ダンパーペダルの踏み込み具合を再現する機能です。リリースタイムとレゾナンス量が変化するそうです。

CC64は時短のためにマウスポインターで編集をせず、リアルタイムでレコーディングしたいところですが、そのためには対応している「ペダル」と「キーボード」の両方を揃える必要があります。

実際のダンパーペダルに近い形状のペダルと、ステージキーボードであれば、ほぼ対応していると思います。ミシンのフットコントローラーみたいなペダルは恐らく対応しておらず、その場合、ペダルを踏んでもCC64の値はONとOFFしか送出されません。MIDIキーボードの方も、コンパクトで安価なものだと同様です。リアルタイムレコーディングをする場合は、2つとも、CC64の値を細かく送出できる機種を揃えたいところです。

⑤ RELEASE SAMPLES

-8.2dBに変更します。

このサンプリングがあるおかげで、打鍵後の余韻が豊かに感じられ、「弾いていて楽しい」わけなんですが、初期値の-6.0dBだと少し強いです。

⑥ NOISES

後の工程でインサートエフェクトを使い高音をブーストすると、ノイズも一緒に大きくなってしまうので、まずは先ほどの画像通りの設定を試してみてください。

HAMMER: -40.0dB DAMPER: -41.0dB PEDAL: -47.0dB STRING: -44.0dB

⑦ TUNING

本解説では442Hzで設定しています。ここを440Hzのままにし、Kontakt側で442Hzに変更してもOKです。The Grandeur側では436Hz ~ 444Hzの範囲(整数)で9段階の中から選べますが、(恐らく)チューニング毎にサンプリングされているわけではないので、好きな方で構いません。注意したいのは、Kontakt側でもThe Grandeur側でも442Hzになってしまうことです。「音の響きが変だな」とか「今日は体調が悪いのかな?」など感じたら、最初にこのチューニング設定を確認してください(超重要)。Hz数(BASIC PITCH)は、プリセットに保存されない点も注意が必要です。なので、もうプロジェクトを立ち上げる度にいちいちHz数を確認した方がいいと思います。waveに書き出す前にも確認します。

これで「Mid」トラックは完成です。

Sideトラックを作成

先ほど完成した「Mid」トラックと同じ値に揃えたい箇所があるので複製し、それをもとに「Side」トラックを作っていきます。

では「Mid」トラックを複製し、名前を「Side」に変更します。

The Grandeur 側のボリュームを +5.1dB → -7.7dB に変更します。

うまく-7.7dBにならない場合は、Windowsなら「Sift」キーを押しながらドラッグしてみてください。

まず、「COLOR」と「DYNAMIC RANGE」を、ほんのちょびっと右に捻ります。

【ANATOMY】タブを開きます。

①「STEREO IMAGE」の「WIDTH」を、2時の方向

②「PEDAL」の「REPEDALING」を ON

③「RELEASE SAMPLES」を -10.4dB

④「NOISES」項目のすべてを OFF

と、それぞれ変更します。

「Side」トラックでは高音を広げ、(後の工程で)ブーストさせます。この時、ノイズも一緒に大きくなってしまうので、これを抑えるか、OFFにしています。②の「REPEDALING」は音がやや遠くなる気がするので、ON にしています。

ここまでで、The Grandeur の設定は完了しました。

MIDIトラックの作成

次に、新規MIDIトラックを作成し、名前を「MIDI」とします。

実際に打ち込んだり、録音するMIDIトラックです。

MIDIトラックを選択した状態で Cubase 側の「Inspector」の「MIDI Send」から、先ほど作成した「Mid」と「Side」トラックへセンドします。

電源ボタンをクリックしてから、「未接続」をクリックし、「01.Mid - Event Input」を選択します。

同じ要領で「02.Side - Event Input」も設定します。

FXトラックの作成

空のFXトラックを3つ作成し、それぞれ「Early Reflection」「Hall」「Plate」と名前をつけます。

インサートエフェクトが挿されていない状態で大丈夫です。

このトラックは第3章で設定していきます。

グループトラックの作成

「To Reverb」の作成

新規グループトラックを作成し、名前を「To Reverb」とします。

Cubase 側の「Inspector」の「Sends」を開き、3つのFXトラックにPreフェーダーでセンドします。

Sendゲインは0.00のままで大丈夫です。

※誤操作防止のため、2トラック開けています。

「Effects」の作成

新規グループトラックを作成し、名前を「Effects」とします。

ミックスコンソールを開き、「Mid」と「Side」の Output を、「Stereo Out」→「Effects」に変更します。

次に、「Effects」の Output を、「Stereo Out」→「To Reverb」に変更します。

最終確認

↑画像のようなトラックの並びに変更すると、目で見て分かりやすいかと思います。

ここで、MIDIトラックを選択した状態で、MIDIキーボードを演奏するか、MIDIノートを再生してみてください。

すべてのトラックのメーターが反応していたら、ルーティングがうまくいっていると思います。

反応しないメーターを持つトラックがあったら、もう一度この章を読み直すか、下の画像を参考にルーティングし直してみてください。

ここまでが「設定とルーティング編」になります。

次章「ミキシング編」では、この章で作成した各トラックにエフェクトを設定していきます。

サンプルで使用した楽曲一覧

本記事で一部使用した楽曲の作曲者と、作曲年、曲名の一覧です。

  • ショパン.(1830).練習曲 Opus 10,No.1.
  • ガーシュウィン.(1925).前奏曲 No.3[3つの前奏曲].
  • ドビュッシー.(1890).月の光[ベルガマスク組曲].
  • ドビュッシー.(1903-1904).仮面.
  • シューベルト.(1827).即興曲 D 899,Opus 90 No.2.
  • ムソルグスキー.(1874).卵の殻をつけた雛の踊り[展覧会の絵].
  • リスト.(1831-1832).ラ・カンパネラ[パガニーニによる大練習曲].
  • ショパン.(1830).練習曲 Opus 10,No.4.
  • Fryderyk Franciszek Chopin.(1830).Etude Opus 10,No.1.
  • George Gershwin.(1925).Prelude Ⅲ[3 Preludes].
  • Claude Achille Debussy.(1890).Clair de Lune[Suite bergamasque].
  • Claude Achille Debussy.(1903-1904).Masques.
  • Franz Peter Schubert.(1827).Impromptu Es-dur D 899,Opus 90 Nr.2.
  • Мусоргский, Модест Петрович.(1874).Балет невылупившихся птенцов[Выставка картин].
  • Liszt Ferenc.(1831-1832).La Campanella[Grandes Etudes de Paganini].
  • Fryderyk Franciszek Chopin.(1830).Etude Opus 10,No.4