はじめに
Native Instruments社のStradivari Violinの使用感を、基本設定なども交えながら、備忘録としてまとめました。
使用するアプリのバージョンは下記の通りです。
- Stradivari Violin → 1.3.0
- Cubase → 10.5.30
Stradivari Violinについて
Stradivari Violinは、Kontakt上で動作し、内容として2つのインストゥルメントファイルがあります。

- Stradivari Violin Multi Mic.nki (17.23GB)
- Stradivari Violin.nki (6.08GB)
Multi Mic の方は、弦楽四重奏などの、弦楽器メインの楽曲に向いています。
2番目の軽量版は、スケッチやバッキングに向いています。
UIの違いは、Multi Mic にのみ、ミキサーアイコンが表示される点です。

Multi Mic は、3つのマイク、Close, Mid, Far のボリュームとパン、ルームノイズを編集できます。
プリセットを選択して、そこから少し変更していくのがおすすめです。

ルームノイズは、値を上げていくとメーターがわずかに反応します。ボリュームを上げてみると、トラックを再生していないのに「ザー」という音がずーっとしています。
後のミキシング・マスタリングの工程で高音をブーストする時、絶対に耳につくようになると思うので、初期値(OFF)のままで正解だと思います。
キースイッチの登録
各アーティキュレーションをMIDIキーボードに割り当てる作業は、よくやりますので、しっかり覚えましょう。
用意されているプリセットをひな型に利用すると時短になります。

キーの割り当てを変更するときは、こんな感じです↓

↑の画像では、C1に登録されていたVirtuosoを、C-1に変更しようとしています。
初期設定のC1からC-1に割り振り直すことで、他の楽器と一緒にMIDIノートを一覧したとき、キースイッチなのか、実音なのか?が明確になるのです。
曲の中で必要になったアーティキュレーションを都度登録し、一曲が完成するころには自分なりのプリセットが出来上がっていると思います。
プリセットの保存方法は、こんな感じです↓

プリセットのいい点は、Multi Micであれば、同時にマイクも設定される点です。
CCにマッピングされていないパラメータ
下の画像、赤枠内に表示される項目は、アーティキュレーションごとに表示されるパラメータが変わります。

この表示位置を覚えてください。例え、どのアーティキュレーションを選択したとしても、ここに表示される項目はCCが用意されておらず、オートメーションできません。
Sustain + Fingered で Con Sordino を使う場合、例えば、Sustain + Fingered を C-1 に割り当て、Sustain + Fingered + Con Sordino を C#-1 に割り当てます。
Con Sordino のようなON・OFFするだけの場合は、上記のように別のキーに割り当てれば済む話ですが、トリルのスピードを、MIDIノートの再生途中で変更したい場合は、工夫が必要です。
詳しくは「Trill の Speed について」をご参照ください。
チューニング
全体の基準 +1Hz を目安に設定しています。
例えば弦楽四重奏の場合、全体を442Hzとしたいので、+1Hzした443Hzに設定しています。

Stradivari Violin は 1st Violin で使用しています。
一応、他の弦楽器も示すと↓
- 1st Violin (443Hz)
- 2nd Violin (442Hz)
- Viola (441Hz)
- Cello (443Hz)
そのほか、主旋律を担当するトラックは443Hzにしています。
正直、私自身、模索しているところです。
この記事のサンプル音源は、442Hzで収録しています。
同音が連続する場合の処理
同じ音を続けて演奏するとき、2つの書き方があります。
↓のサンプルでは、わかりやすいように「Marcato」を使用しています。
MIDIノートを切る

Bow Changeを使う

Bow Changeは初期設定だとD2に割り振られていますが、変更可能です。

MIDIノートにダイナミクスをつける
MIDIノートの音量を変化させる時、ピアノ音源ならベロシティーを編集しますよね?
Stradivari Violinの場合は、CC11 + (ベロシティー または CC1)を編集します。
括弧内は、音源によって異なります。
下の画像は、ベロシティーかCC1、どちらが有効かを示しています。

CC11は、すべてのアーティキュレーションで有効です。
画像に追加してみます。

ここで、ベロシティーかCC1、どちらが有効かで手順が分かれます。
ベロシティーが有効
MIDI入力後すぐ、ベロシティーを編集して音色を確定します。
次にCC11で微調整をします。

CC1が有効
CC1が有効な場合は、まず先にCC11を編集します。
フレーズの1音ごとの、相対的なボリュームを編集するイメージです。
そのため、下の画像のように、細かいカーブになります。

CC11の値は、0にすると完全な無音になります。
フレーズのお尻で一度音を切りたいときは、減衰のカーブを描き、終値を0にしましょう。
次にCC1を編集します。
楽譜上にf(フォルテ)やp(ピアノ)を書き込むイメージです。ざっくり矩形で描きます。

CC11とCC1を並べてみると、こんな感じになります↓

CC1はざっくり矩形で描きました。もし、もっと抑揚をつけたい箇所については、CC11に書いてあるカーブをCC1にコピペしましょう。
動画(音声なし)で解説します。
動画では、まずスナップを有効にして、カーブの前に1つアンカーポイントを打ち込んでいます。
次に、CC11のカーブを、打ち込んだアンカーポイントごとドラッグで選択し、CC1のレーンにペーストしています。
打ち込んだアンカーポイントごとコピーすることで、ずれることなくペーストすることができるのです。
Virtuoso - スケッチやバッキングに利用
Virtuosoは、楽曲のスケッチ用に用意された便利機能です。
「ベロシティー」と「ピッチベンド」で、4つのアーティキュレーションを切り替えることができます。
楽曲のスケッチの他、バッキングのみの弦楽器パートに使う場合であれば、この便利機能のみでも十分でしょう。

ベロシティー
レガート ⇔ ポルタメント を切り替えます。
デフォルトだと、ベロシティーが104以上でポルタメントになります。(順序を逆に変更可能)
MIDIキーボードを普通に弾くとレガートし、強くたたくとポルタメントするイメージです。
この初期値「104」という閾値自体も変更できます。
ピッチベンド
スピッカーティッシモ ⇔ スタッカート を切り替えます。
MIDIキーボードのピッチホイールを上にあげるとスピッカーティッシモ、下にさげるとスタッカートが鳴ります。本来、この2つのアーティキュレーションはベロシティーでダイナミクスの編集をしますが、VirtuosoにおいてはCC1を代用します。
Virtuosoでは既にレガート ⇔ ポルタメントのスイッチでベロシティーが使用されている為です。
Virtuosoの使い方
先に結論を申しますと、
- Virtuosoを本番トラックで使うなら、レガートとポルタメントのみ使え。
- ピッチベンドでアーティキュレーションをスイッチするな。
- それをするなら、Virtuosoしか使用しないトラックを別に作成せよ。
ここまで見ると、Virtuosoは便利な気がします。
確かに、Virtuoso + ベロシティーで、レガートとして使う場合は、本番トラックでも使えます。
しかし、Virtuoso + ピッチベンドを使う場合には注意が必要です。
問題点として、Virtuoso + ピッチベンドのノートの後続に、別のキースイッチノートがあり、そのキースイッチノートの末尾まで再生し切る前に再生バーを移動させると、ピッチベンドの音程変更が有効になる・・つまり、Virtuoso + ピッチベンドのスピッカーティッシモは意図せず半音上がり、スタッカートは意図せず半音下がります。
おそらくDAWと音源のミスコミュニケーションでしょう。キースイッチ音源あるあるとでも言いましょうか。
繰り返しになりますが、Virtuoso + ピッチベンドでアーティキュレーションをスイッチするなら、Virtuosoしか使用しない専用のトラックを用意し、他のアーティキュレーションにキースイッチをしない方が良いのです。
ただし、レガートとポルタメントのみを使う場合は、本番トラックでも十分使えます。
CC(Control Change)について
先述の通り、バッキングとしての弦楽器パートであれば、Virtuosoを選び、CC1とCC11のカーブを描くだけで十分だと思います。
しかし、弦楽器メインの楽曲では、もう少し音色に変化が欲しいのです。
まず、Stradivari Violin側で既にマッピングされている、操作可能なCCを再度確認してみましょう。
No. | 説明 |
---|---|
1 | Dynamic |
11 | Expression |
14 | Vibration Intensity |
15 | Vibrato Rate |
20 | Vibrato Style |
21 | Position Preference |
その他、2, 3, 4, 35, 40, 41, 42, 43, 45, 50, 51, 52, 102, 103, 104, 105, 106, 107, 108, 109 については、ソフトウェア内部で使用するため、使用やマッピングをしてはいけないそうです。
CC1とCC11 - ダイナミクス
こちらは先述の「MIDIノートにダイナミクスをつける」をご参照ください。
CC14,CC15,CC20 - ビブラート
ビブラートは、生演奏のようなサウンドを目指す上で、欠かせません。
SHORTカテゴリー, EXPRESSIVEカテゴリーと、Col Legno 以外であれば、使用が可能です。

CC21のPosition(運指)設定で、「High String」や「Low String」を選択すると、アプリが開放弦を選択する場合があります。この時、ビブラート関連のCCを編集していても、すべて無効になってしまいます。
Pizzicatoにビブラートを与えたい場合は、「Pizzicato のビブラート」をご参照ください。
CC14 (Vibration Intensity)
ビブラート音を、元のビブラートしていない音に、どれくらいアマウントするか。ということです。値を大きくすると「良く揺れた音」になり、値を小さくすると「控えめ」になります。
CC15 (Vibrato Rate)
ビブラートの速度です。
値を大きくすると早くなり、値を小さくすると遅くなります。
CC20 (Vibrato Style)
ビブラートのニュアンスが大きく変わります。
初期設定はPassionateです。CC20を特に変更しなければ、Passionateが鳴ります。
種類 | 意味 | 数値 | サンプル |
---|---|---|---|
Passionate | 情熱的 | 0~21 | |
Intensity | 揺れが大きく強い | 22~42 | |
Wide | 音程幅の広い | 43~63 | |
Evolving | 徐々に展開 | 64~84 | |
Narrow | 細やかな揺らぎ | 85~105 | |
Immediate | 発音と同時に | 106~127 |
違いが分かりづらい場合は、Passionate(一番上)とImmediate(一番下)を聴き比べてみてください。
Passionateはやや遅れてビブラートしている一方、Immediateは音の立ち上がりから揺れています。
CC21 (Position Preference)
ソフトがMIDIノートを再生する時、どの弦でその音を鳴らすのかを、ざっくり選ばせるオプションです。初期値は「Smart」です。
MODO BASS 2 にも似たオプションがあった気がします。
オプション | 数値 |
---|---|
High String | 0~41 |
Smart | 42~84 |
Low String | 85~127 |
このCCは、MIDIノートの入力後、早い段階で設定してしまった方が良いです。
音色が激変し、音量もやや変わり、レガートのアタックタイムが変わってしまう場合があるためです。
↑のHigh Stringでは、最後の「レ」に開放弦が選択されているため、ビブラートのパラメータが無効になってしまっていますね。
↑の例では、High Stringはハーモニーの中でも明確に聴きとれる、よく弾き分けられた音、Low Stringはまろやかでハーモニーに溶けあう音、というのが想像できるのではないかと思います。
この音源は全体的に音量調整が良くなされているので、Smart, High, Low を切り替えても、音量の差は実感しづらいです。
Pizzicato のビブラート
Pizzicato にはビブラートのパラメータが存在しません。
「ポンッ」という軽い音を、もっと「ヴオン..」という感じに「重たく張り詰めた音」にするには、どうするか?
結論、ピッチベンドでカーブを描きましょう。こんな感じです↓

Stradivari Violinのピッチベンドのレンジは上下に半音ずつ(全音)ですので、結構大きくカーブを描いた方が「ヴオン..」と鳴ってくれます。
まあ、こんなに爆音では鳴らさないですね笑
普通はもっと音量が小さいはずですから、もっと音程を揺らした方が効果的な場合もあります。
一度、曲の中でやってみると、もうあの頃には戻れなくなると思います。
Con Sordino
弱音器を装着して演奏した音です。すべてのアーティキュレーションで有効なパラメータです。
実際には、フレーズを弾いている途中で楽器に弱音器を着脱するだなんて、できないでしょうが...MIDIならばそれが可能です。
特に、高音部の音色に変化をつけるという使い方が好きです。
上のサンプル音源では、前半の「レ・ファ#・ラ」は両方とも普通のスタッカート、次の「レ・ファ#・ラ・レ~」でCon SordinoのON・OFFが分かれます。
また、Con Sordinoを実際に使うときは、CubaseのオートメーションでON・OFFするのではなく、Stradivari Violin側で新たにキースイッチを割り当てて使用します。
例えば、Sustain + Fingered で Con Sordino を使う場合、Sustain + Fingered を C-1 にアサインし、Sustain + Fingered + Con Sordino を C#-1 にアサインします。
Trill の Speed について
ごく短い、八分音符に挟まれたようなトリルならばスピードは一定で良いと思いますが、
はじめはゆっくり..徐々に早くしていく、ピアノみたいなトリルがやりたい場合、どうするか?
方法は2つあります。
- Trill を使う場合
- Marcato + Run を使う場合
順に説明していきます。
① Trill を使う場合
音が一番いいのは、この方法です。
手順としては、
- MIDIを再生しながら
- トリルスピードのスライダーを、マウスポインターでドラッグ&調整しつつ
- 別のオーディオトラックに録音していく
つまり「パラメーターを手動で調整しつつ、リアルタイムで録音する」ということです。
トリルの箇所の前後のみ、何テイクか録音します。
こちらの記事を参考に、やってみましょう。

【記事】Cubaseでオーディオトラックを使い、MIDIノートをオーディオ化する
上記はあくまでもTrillを使用する場合でしたが、
Marcato + Runだと、細かいトリルの音までMIDIにでき、自由度が更に増します。
② Marcato + Run を使う場合
トリルの音をすべてMIDIノートに打ち込んでしまおう。ということです。
音を上から引っかけてみたり、思いのままです。
トリル中のみ、ピッチベンドを少し持ち上げます。数値で示すと737くらいでしょうか。
なるべく明るい音にすることで、自然に聴かせることができます。

cubase13以上だと表せる数値の範囲が異なるので、適宜変更してください。
アクセントをつけたくなければ、代わりに Sustain + Run を使います。
最後に
基本設定から応用までを、取り留めなく解説しました。
この記事ではStradi Violinの紹介でしたが、Cremona Quartetの他の楽器にも応用できます。
記事の中で、個人的に一番大変だと思うのは、CCのカーブを描く作業です。この作業は避けられません。
あと、やはりレガートは、どうしても拍の頭に合わせるのにひと手間かかります。Short系はバッチリ拍に合うから、トラックディレイは使えないですし、おとなしくノートを前倒しして微調整するしかありません。TOKYO SCORING STRINGS の LOOKAHEADモード(+プラグイン)みたいな機能が欲しいものです。
また、本記事で一部使用したhangyojin作曲の「遥かな空」のフルバージョンはこちらで配布しております。
記事中でお気づきの点がございましたら、コンタクトページからお寄せいただけますと幸いです。
いただいたメッセージには個別の返信をいたしておりません。お含みおきくださいませ。